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道路行政

平成20年1月に開会された第169回通常国会は、さながら「道路国会」の様相を呈しました。暫定税率撤廃による一時的なガソリン価格低下に目が向きがちですが、日本の道路行政のあり方にとってより重要であったのは、前年秋に政府が提示した道路事業に10年間で65兆円(後に59兆円に変更)を投入するという「道路の中期計画」の是非についての議論です。

私も前年秋から国政の次の焦点は道路問題になると狙いを定め、道路公団民営化を手始めに調査を開始しました。調査していく中で「センサス調査」「需要推計」という聴きなれない言葉に突き当たりました。調べを進めるとこれこそが国の道路整備事業の根幹であることが分かったのです。資料提出をめぐり国土交通省と格闘しながら予算委員会に臨みました。

結果として国土交通省が隠していた最新の「需要推計」を暴露するなど、「道路の中期計画」のまやかしを明らかにし、「需要推計」の水増しにより不要な道路を造り続けようとしている道路行政の実態をあぶり出しました。道路行政の根幹である「需要推計」について国会で切り込んだのはこれが初めてです。

質疑により、これまで厚いベールに包まれていた需要推計とB/C(便益/費用)など不透明な道路整備根拠の実態が、雑誌や民放各局でも大きく取り上げられ、なによりも税金の使い道に対する国民の関心が高まりました。

予算審議を受け、福田総理は最新の需要推計により新たに5年間に短縮した「道路の中期計画」の策定を提案するとともに、道路特定財源制度を次年度から一般財源化することを閣議決定せざるをえませんでした。予算委員会における質疑が、政・官・業・学と連なる癒着の構造に浸ってきた道路行政の根幹を崩壊させる突破口となったのです。

 

隠された需要推計

道路整備(工事)は次のような段階で進められます。まず、全国の道路交通事情を一斉に調べる「道路交通センサス」という実地調査を踏まえ、これにGDPや人口予測などを加味して将来の交通需要(交通量)を推計します。そして、その上で計画された路線を造る際の「費用」と「効果」を精査します。費用は道路工事費や土地の取得費などで、道路を造るのにいくらかかるかという積算となります。一方、効果は道路を造った場合の経済的利益を、移動の時間短縮や交通事故の低減などで算出します。この「効果」を「便益」と称します。そして便益を費用で割った数値(B/C)が1より大きい、即ち便益が費用を上回る場合に道路整備を実施することになります。

国土交通省は高規格幹線道路の延長を最終的に1万4千キロとすることを目指していますが、中期計画ではそのうち最後の2900キロについて評価を行い、全ての区間においてB/Cが1.2を上回ると結論付けています。つまり、この計画に載った全ての道路を建設するとの国土交通省の意思表示です。私は審議の中で国土交通省が国民の目に触れないようにしてきた様々な根拠を示しながら、この「1.2」という数値が偽装であることを論証していきました。

「道路の中期計画」のB/Cの算定には平成14年に公表された「全国将来交通需要」の値が使用されています。この推計が適正かどうかは最近の実績値と比較する必要があります。しかし、最近の実績値は公表されていません。(国土交通省は公表しているといってはばかりませんが)正確には、車種別の原データしか公表されていないため、総数を出すには原データを計算しなければなりません。苦労して算出したところ、交通需要は平成16年以来3年連続で下落を続け、平成14年の需要推計は平成18年の実績値と5.8%も乖離し、上ぶれしていることが判明しました。国土交通省は実態を国民の目から隠してきたといわれても仕方ありません。推計値としては不適切であり、より適正な需要推計でB/Cを算定しなければなりません。

国土交通省はそれまで最新の需要推計は平成14年のものとしてきましたが、実は平成19年3月に国土交通省の天下り団体でもある「財団法人計量計画研究所」が「平成18年度将来交通需要推計に関する検討業務」という需要推計についての報告書をすでに国土交通省に提出していたことを突き止めました。この推計でも、需要が落ち込んだ実績値からの急激なV字回復など、恣意的な需要のかさ上げが見られますが、それでも2030年では8.7%、2050年では15.6%も平成14年の推計を下回っています。

この推計値をB/Cに適用すれば、中期計画でB/Cが1.0を上回っている高規格幹線道路も1.0を下回る可能性が出てきます。そのため、国土交通省道路局はこの報告書をひた隠しに隠してきたのです。私は様々な方法でこの報告書の存在の証拠を探し出し、突きつけたところ、ついに国土交通省に提出させることに成功しました。これまで、政官業に学(学者)まで加わった鉄壁の癒着とも呼ぶべき国土交通省道路族。そのブラックボックスとなっていた「交通需要推計」に風穴を開けた意味は限りなく大きいのです。

 

水増しされたB/C

中期計画の便益/費用(B/C)の算定方法は、同計画の記載によると平成14年の推計値を用いて「費用便益分析マニュアル」(平成15年8月)を適用して行うこととされていました。しかし、実際には中期計画には記載されていない「高規格幹線道路に関する点検について」(平成19年11月)という冊子に基づき、交通量、便益、管理費等を「2030年の値で一定と仮定する」という特殊な計算方法で行っていたことを突きとめました。これは現在国土交通省で行っている各年で変化する推計値を忠実に便益に反映させる事業評価とは全く異なる方法です。2030年以降の交通量は年々下がっていく結果が出ていますので、本来その分便益は減ることになりますが、中期計画の評価手法では値が高いまま固定しているので便益が水増しされることになります。国土交通省が道路建設を無理やり実施するため、国民の目から隠すような手法を用いて高規格幹線道路のB/Cを水増ししていた事実を明らかにしました。

 

試算により根幹を崩す

質疑では、上述した2つのポイント、つまり、①2030年で8.7%も乖離のある平成14年推計値ではなく平成19年の推計値を使用して実態に近い便益を把握しなおすこと、②需要推計値を2030年で固定した評価手法を改め、推計値の逓減を反映させることを訴えました。その際、冬柴国土交通大臣もお墨付きを与えた「将来交通予測のあり方に関する検討委員会」の試算も使用しました。この試算は具体的道路に当てはめて計算したもので、需要推計値1%の減少で便益が3.6%減少するケースが紹介されています。

上述の2つのポイントを踏まえ、この試算に当てはめた場合に、中期計画における高規格幹線道路の便益がどの程度減るのかを試算しました。その結果、便益が38.2%も減ることが明らかになりました。例えば、中期計画において、国土交通省の計算上はB/Cが1.61の道路であっても、適正な計算を行えば1.0を切ってくるものも出てくる可能性があるということです。冬柴大臣はB/Cについて本来1.0のところを1.2のアローアンス(=許容量)をとっていると呪文のように唱えておりましたが、それが全く意味のないことが明らかになり、中期計画の前提は完全に破綻しました。

 

危うい高速道路の債務返済

水増しされた需要推計は高速道路の債務返済にも大きく関わってきます。高速道路機構の債務返済計画は旧道路公団から承継した37兆円にも及ぶ債務と、今後の建設等から発生する債務を45年もかけ、2050年までに返済するというものです。機構の債務については、2月15日の額賀財務大臣の答弁で負債のうち約8割が政府保証債や政府借入金、つまり国からの借金で成り立っていることが明らかになりました。返済計画が破綻すれば、つまり機構が独力での返済が不可能となれば、国民が負担することになります。

この債務返済計画には大きな3つのリスクが伴います。一つは金利上昇リスクです。返済計画は将来の金利を4%と見込んでいます。これが1%でも上回れば借金は16兆円も増え、返済計画は破綻してしまいます。また、新たな高速道路建設による借金増大も大きなリスクです。高速道路機構の貸借対照表には機構の負債総額として約36兆6千億円が計上されていますが、実はこれに加えて新たな高速道路建設等の費用約20兆円と利子約35兆円が加わることになるのです。機構はこの数字を表に出していませんが、借金は合計で約57兆円、利子と出資金を加えると100兆円近くにも上るのです。これら借金の返済に回すお金は将来の高速道路の料金収入から賄われるのですが、見込まれる将来の料金収入は水増しを指摘した平成14年の「需要推計」によって計算された交通量に、通行料金を掛けたものです。このため将来の料金収入が計画を下回ることは目に見えています。債務返済計画は行き詰まる恐れが高く、そのつけは国民負担として降りかかることになるのです。

 

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